OL、モデル、作家……さまざまな分野で活躍する魅力的な淑女たちの黒歴史に迫る連載企画「淑女の黒歴史手帖」。第二回は演劇モデルの長井短が登場する。

 

演劇とモデル業を中心に、テレビCMやバラエティへの出演のほか、ラジオのパーソナリティを務めるなど、幅広い分野で活躍中の長井さん。破天荒なキャラクターもさることながら、コラムやブログから滲み出る彼女独自の哲学に根強いファンが後を絶たない。

一度見たらクセになる、長井さんの独特な魅力は何に由来するのか。この“淑女”の原点に迫る。

 

-目次-

一頁、走り去りながら愛の告白

二頁、スイマーで靴下を買う私

三頁、高校の机に地元の友人の名を羅列

四頁、リアルタイムで別世界をアピール

五頁、長井短が“言えない”言葉

 

●一頁、走り去りながら愛の告白

 

長井さん小6。ドラマ『キッズ・ウォー』の影響を受けたというファッションに、カチューシャの合わせ技

 

——今日はよろしくお願いします。長井さんといえば、恋愛に関するコラムも多く執筆されています。思春期にはどんな恋愛をされていたのでしょうか。

長井さん : 初めての彼氏ができた中学生の時、手作りのチーズケーキをあげることになったんです。ただ、ちょっと失敗しちゃって、生焼けみたいになっちゃって。買ったのと、作ったのと両方持ってくことにしたんです。

—え、生焼けもですか?

長井さん : そうです。なんでそうしたのかは覚えてないんですけど。そのあと、待ち合わせ場所の公園に行ったら、あの……、公園によく「どうやって使うんだ」ってくらい、高い鉄棒あるじゃないですか。

—ありますよね。ぶら下がるのがやっと、みたいな高さの。

長井さん : そうそう。彼氏がそれの上に座ってて。私を見るなり、「シュタッ」と何事もなかったように降りてきてくれて

—かっこいいですね……。

長井さん : チーズケーキは無事に渡せたんですけど、普段、学校で会うだけだから、2人でいる状況がなんか本当に恥ずかしくなっちゃって。その時、まだ彼に直接「好き」って伝えてなかったので、その日は直接「好き」と伝える約束をしていたんです。

—おお、甘酸っぱい。

長井さん : けど、あまりにも恥ずかしくて、たまらなくて。「じゃ!」って踵を返して、「好きーーーー!」って、叫びながら、畑広がる夜道を走り去りました。

—……青春ギャグ映画って感じですね。香ばしい。

 

●二頁、「桐谷美玲とは逆をいく」

幼少期の長井さん。眼光の鋭さが明らかに幼児のそれではない

 

—初っ端から強烈なエピソードをいただきましたが、当時、長井さんはどんな中学生だったんですか?

長井さん : うーん。「一般的な子と逆をいく」みたいなところはあったかもしれないです。テレビよりラジオが好きとか。あと、多くの女子が桐谷美玲さんに憧れていたので、「私は絶対に桐谷美玲には憧れないぞ。桐谷美玲とは逆をいく」と思っていました。

—桐谷美玲と逆(笑)。なるほど、長井さんは個性を大切にしていたんですね。

長井さん : 今思えば本当に失礼ですけど、女子バスケ部の子たちが似合ってないのにゆるふわな服着ているのを見ると、「お前、ちゃんと“全体感”を考えてんのか!!」とか思ってましたね。

—全体感。

長井さん : まあ、私も相当やばい服着てたんですけど……。

 

長井さん中学生時代のブログより「今時中学生超生意気私的感情論。」

 

—長井さんはどんな服を着ていたんですか?

長井さん : パパがムラサキスポーツに勤めているので、そこで買ってもらったり。初めて、友達と服を買いに行ったのはハニーズでした。

—当時の中学生はこぞってハニーズの服を着ていましたよね。

長井さん : そうそう。キャラにも顔にも似合わないのに、デコルテがゆるくて、肩ひもが細い、胸元に大きいリボンがついたオフホワイトのワンピースとか着てました。あとは重ね着問題。ちょっと短めのワンピースの下に、わけわかんないパッチワークのロングスカート履いたり。

—今のモデルの長井さんからは想像もできない……。でもそれって、当時の王道ファッションじゃないですか?

長井さん : 今、思えばそうなんです。ただ、スイマー(雑貨屋)で靴下を買っていたのはすごい自慢だったかな。「服屋とかチュチュアンナじゃなくて、スイマーで靴下買うんですよ、私」みたいな。

—主張が地味(笑)。

 

●三頁、高校の机に地元の友人の名を羅列

長井さん中学生。「飾らず、シンプルな方が大人っぽくて良い」と思っていたそう

 

—高校入学後はどうでしたか?

長井さん : 高校は、同じ中学の子がいない、地元から離れた杉並区の高校に進学したんですけど、思ったより馴染めなくて。その事実に飲み込まれないように、どれだけ地元を愛しているかを自分に言い聞かせていました。

—例えば?

長井さん : 地元の友達の名前を、机やノートにずっと書いてましたね。

—それは怖いですね。

長井さん : 入学後わりとすぐ、同じクラスの女の子グループに入ることはできたんです。でも4人グループ中、私以外の3人は、学年に同じ中学の友達がいて。その子達に「長井だけ、このグループしかない」と思われたら嫌だなと思ったので、休み時間は地元の友達に電話をかけていました。

—クラスの子には話しかけずに。

長井さん : そうなんです。当時、学校の廊下で電話するのが大人っぽい、と思ってて。

—ちなみに、どんな電話をかけてたんですか?

長井さん : なんか、めちゃめちゃ楽しそうに……「なに〜?」とかって。

—自分からかけてるのに?

長井さん : そうですね。「ちょっと、かけてこないでよ〜(笑)」感を出してました。電話の相手が彼氏だと思われたら一石二鳥。学校とは別の世界を持っていることがかっこいいと思ってて。

 

●四頁、リアルタイムで別世界をアピール

 

—なるほど、他にもそんなアピールを?

長井さん : 2学期になると学校外で演劇を始めたので、大学生とか、大人と一緒に演劇をして、稽古の後にご飯を食べに行ったりするようになったんです。それを「かっこいい」「すごい」と思ってて。「これを同級生のみなさんにアピールしない手はない」と思ったんです。

—同級生のみなさんに。なるほど。

長井さん : なので、リアルタイム(※ツイッターのような短い文章を綴るブログ。前略プロフィールと同時期に中高生を中心に流行した)に、今思えばクソみたいな演劇論を綴っていました。

—例えば?

長井さん : 劇団に嫌な先輩が1人いたんですけど、その人について「おかしいだろ!」「あんなの演劇じゃない!」って熱くなってみたり。

—同級生のみなさんから反響はありましたか? 

長井さん : なかったです。あと、その劇団はぼったくりだったんですよね。

—さんざんですね……。

 

●五頁、長井短が“言えない”言葉

長井さん高1。ぼられていた頃。一緒にぼられていた劇団の大人とともに

 

—アルバイトとかはしていましたか?

長井さん : いろいろしました。オムライス屋さんとか、アイスクリーム屋さんとか、大学付属のコンビニ、テレアポ、喫茶店、あとレストランとか。

—多いですね。1番続いたバイトは?

長井さん : 大学付属のコンビニは3年半続けました。

—コンビニバイトが、そのなかで性に合っていたと。

長井さん : うーん、休む時にFAXで連絡すればよかったんです。当日「休みたいな……」とか思うと、高校の職員室からバイト先に「申し訳ございません」ってFAXを入れればいいので。

—電話の方が早くないですか?

長井さん : 言えないんですよ。バイト辞めるときとかも、どうしても言えなくて、全部ばっくれで辞めてます。

—え、全部?

長井さん : 全部。一言でいいのに、言えなかったんです。なんでですかね。恋愛の別れ話とかもそう。相手から別れを切り出してほしい。

—じゃあ、長井さんが別れたくなったらどうするんですか?

長井さん : なんか明らかに冷めた空気を出しちゃうんですよね。メールの返信をすごく遅くして、まだ夕方なのに「寝てた」って返事しちゃったり。電池が切れちゃった空気を出すというか。一緒にいてもあんまりしゃべらなくなっちゃうんです。テンションも上がらないし。相手とコミュニケーションをとることに対して全くやる気のない人間になり下がっちゃう。

—そうなると、まぁ相手も楽しくはないですもんね。

長井さん : そうそう。なんか一緒に居づらいし、そのストレスでどうにかして相手から「もう無理。もう付き合えないよ」って言葉を引き出したい。この一言を自分で言う勇気が出ないんです。自分の言葉で、関係とか状況が変わることが怖いんですよね。

 

〜総括〜

遠ざかりながら愛を告白し、孤独でないことをアピールすべくその場での孤独を作り、嫌な状況を打破したいのに、変化を起こすのが怖い——。長井短の黒歴史には多くの美しい矛盾が隠れている。

人間誰しもが抱えている矛盾。相反するふたつのはざまで揺れる葛藤こそ、人間の知性であり、人生そのものではないだろうか。長井さんのもつ、少し笑えて、少しシュールな人間味あふれる矛盾は、観客、リスナー、そして読者に、いつも共感と興味を抱かせる。これこそ彼女の魅力そのものであり、彼女が多くのファンを惹きつける要因なのだろう。

(取材・執筆 伊藤紺)

長井短
演劇モデル。ニッポン放送「オールナイトニッポン0(ZERO)」月曜担当。装苑・GINZA・Zipper・リンネル・mens non-no・an-anなどの雑誌・ルックブック、月刊「根本宗子」シアターコクーン・オンレパートリー「プレイヤー」などの舞台を始め、日本テレビ「今夜くらべてみました」、「行列のできる法律相談所」(TVバラエティ)、ピップエレキバン「コリコリダンス」篇(TV CM)、Sunny Day Service「イン・ザ・サン・アゲイン」(MV)などに出演。(事務所公式プロフィールTwitterInstagram
伊藤紺
ライター/編集。1993年生まれ。調査記事、取材記事を中心に人物ストーリー、エッセイ、短歌なども執筆する。クライアントの思想や意図を汲み取った企画提案が得意。制作ユニット「NEW DUGONG」ではビジュアルと文章を組み合わせた、キャッチーで読み応えあるコンテンツを多数制作。リトルプレスの発刊やトークイベントを年に数回ペースで行う。(ProfileTwitterInstagram
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20184月吉日、満を持して株式会社おくりバントに婦人部が発足。
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